『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
やっぱりじんとくる純愛物語
『クロコダイルとイルカ』
北海道の剣淵町には、「剣淵町絵本の館」という絵本館がある。この絵本館は、「わが町を「こころのふる里」と呼べるだけの何かを創り、こころの豊かな人間が育つようにしよう」という男たちの活動から生まれた。そして、この絵本館を軸にした映画「じんじん」が製作された。
『クロコダイルとイルカ』は、映画「じんじん」の中で主人公がコンクールに応募した絵本である。そして、映画完成後に絵本も発行されることになった。
「じんじん」の主人公・銀二は、妻と娘と別れ娘とは幼いころ別れたあと一回も会っていない、そしてある年故郷の幼なじみの農場に手伝いに行くと、その農場に女子高生の農業研修生が来る。その中に娘もいた。そして、自分の娘に真実の思いを絵本で表現しようとして、コンクールにこの『クロコダイルとイルカ』を応募する。
『ちいさいきみとおおきいぼく』
フランスの作家とイラストレータの作品『ちいさいきみとおおきいぼく』は、フランス的エスプリを感じさせる絵本である。
丘の上の大きな木の大きいオオカミのところに、ある日、ほんとうにちいさなオオカミがやってきて、当たり前のように一緒に生活し始めた。大きなオオカミは、何をしても<ほんとうにちいさいな>と見下すようにつぶやいた。そして大きなオオカミはひとりで散歩に出かけ、わざと見えないくらい遠くまで足をのばす。そして戻ってみると、小さいオオカミがいなくなっていた。
ちいさいオオカミがいなくなってみると、その存在の大きさがひしひしと感じられる。
<ぼくの こころは、あいつで いっぱいだ。こんなきもち はじめてだ>と。(抜粋)
関連図書:
ドリアン助川(作)、あべ弘士(絵)『クロコダイルとイルカ』、映画「じんじん」事務局(発行)、メディアパル(発売)、2013年
ナディーヌ・ブラン・コム(文)、オリヴィエ・タレック(絵)、磯みゆき(訳)『ちいさいきもとおおきいぼく』、ポプラ社、2013年
童話という語り口の深い味わい
童話は文字通り童のためにやさしくわかりやすい物語のことである。しかし、著者は、それは子どもだけのためのものではないとして、次のように言っている。
私が「大人こそ絵本を」というキャッチフレーズで大人に絵本をすすめているのは、絵本を深く読むことで、人間にとって大切なこころの持ち方などを、料理の隠し味のようにして、あるいは落語の落ちのようなかたちで忍びこませてあることに気づくのを期待しているからだ。(抜粋)
本章では、そのような絵本を三冊紹介している。
『わるいわるい王さまとふしぎの木』
一冊目は『わるいわるい王さまとふしぎの木』である。砂漠の真ん中に住んでいるわるい王さまは、わがままで意地悪だったため、家来たちはみな逃げてしまう。王さまは一人で暮らしていると、魔法使いのような老人がやってきて通行料の代わりに、しあわせの実がなるという種を一粒差し出した。王さまはその種を植える。王さまは、<いますぐ おおきくなれ!おおきくならないと くびを はねてやる!>といつもの口癖でいうのだが、草花はすぐには大きくならない。しかたなく王さまは水をやりつづける。
やがて木が大きくなり、小鳥やリスが住み旅人が木陰で休むようになる。その頃には王さまは、もう大きな声で怒らなくなっていた。
そのうちに<やさしい王さま>に変わったことを聞いた家来たちが城に戻ってくる。しかし、大きな木には、実がつかなかった。
<けれども、王さまは、「しあわせの実」が、どんな実なのか、知っていました>(抜粋)
『げんこつ げんたろう』
二冊目は『げんこつ げんたろう』である。
げんたろうは、こころのなかにいつも怒りに満ちた自己主張の感情をかかえているが、それを言葉に出せずにぎゅっとげんこつを握ってしまう。そして、<だけど、げんこつ ひらかなきゃ>と母親に説得される。そして、けんかの相手と仲直りする。
<げん げん げんこつ ひらいたら やさしい えがおも まんかいだ>
母親の胸に素直に飛びこむげんたろうがいる。(抜粋)
『彼岸花はきつねのかんざし』
三冊目は『彼岸花はきつねのかんざし』である。
祖母や母からきつねに化かされた話をきいた也子は、きつねが出るという竹やぶに行って、かわいらしい“おきつねさん”に出会う。也子とおきつねさんは、仲良しになってファンタジックな遊びを楽しむ日々が過ぎてゆく。
時代は、あの戦争のさなかだった。ふたりが遊んでいたのは、広島市の一角。八月六日朝、原爆投下の悲劇が訪れる。也子も被爆して病に伏し、子ぎつねは行方不明。妙な話を聞く。地蔵石の前に彼岸花が束ねて置いてあったと。也子が子ぎつねに<化かされたい?>と聞かれたとき、<白い、彼岸花(に化かされるの)がいいなあ>と言った、その花ではないか。也子は走った。地蔵石の前には、すっかり枯れ果てた彼岸花があった。束の真ん中あたりに、きつねのくわえたようなあとを残して。(抜粋)
作者の朽木さんは、親が被ばくした被爆二世である。朽木さんが、戦争を知らない子供たちに、どのように戦争を伝えたら、身近な問題としてわかってもらえるかと考えた末にこの物語はできた。
関連図書:
あべはじめ(作)『わるいわるい王さまとふしぎの木』、あすなろ書房、2016年
くすのきしげのり(作)、伊藤秀男(絵)『げんこつ げんたろう』、廣済堂あかつき、2015年
朽木祥(文)、ささめやゆき(絵)『彼岸花はきつねのかんざし』、学研教育出版、2015年
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