自己決定理論(後半)
鹿毛雅治『モチベーションの心理学』より

Reading Journal 2nd

『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第5章 学びと発達―成長説(その5)   3 自己決定理論(後半)

今日のところは、3節「自己決定理論」の後半である。前半においては、アンダーマイニング効果とエンハンシング効果の解釈として「認知的評価理論」が解説されたそれを受けて後半では、今日を代表する成長説となった「自己決定理論」が解説される。


1980年代以降「自己決定理論」は、モチベーションのみならず、パーソナリティをも含めた心理学の一大理論となっている。その本質的特徴は、「人はそもそも活動的な存在で、成長と人格的統合へ向かう傾向性を生まれながら持っている」という人間観を持っているということである。

「自己決定理論」は、さらに以下のような複数の「ミニ理論」に分かれる。

  • 1.「認知的評価理論」・・・(前半)参照
  • 2.「基本的心理欲求理論」
  • 3.「有機的統合理論」
  • 4.「目標内容理論」

基本的心理欲求理論

「ミニ理論」 2.の「基本的心理欲求理論」は、生得的な3つの心理的欲求のはたらきを説明する。生得的な心理欲求とは次の3つである。

  • ①.コンピテンスへの欲求:環境と効果的に関わりながら学んでいこうとする傾向
  • ②.自律性への欲求:行為を自ら起こそうとする傾向性
  • ③.関係性への欲求:他者やコミュニティと関わろうとする傾向性

そして、この3つの欲求を同時に満たすような条件が、人を意欲的にし、ウェルビーイングを促進しパーソナリティを統合的に発達させる、さらには(成績、創造性などの)パフォーマンスも促進される。反対にこれらの欲求が満たされないと意欲や健康が損なわれる。

この心理的欲求を充足によるモチベーション(エンゲージメント)を高めるためには、

  • 1.自律性サポート:当人の行動をコントロールしようとしたり強制したりするのではなく、彼らの自律性を支援しようとすること
  • 2.構造:環境側の提供する情報が無秩序でも不明瞭でもなく、達成結果へと導く有意味な情報を含んでおり、達成へのサポートを提供するような特徴を備えていること
  • 3.関わりあい:対人関係が敵対的でなく、思いやりのあるものであること

の3つの側面が重要である。
これらにより、自律性、コンピテンス、関係性が充足され、結果として3つの欲求が満たされることによりエンゲージメントが高めれ、さらにはモチベーションのみならず当人の適応も促され、社会的、認知的、人格的発達へと結びつく。

有機的統合理論

次に「ミニ理論」 3.の「有機的統合理論」は、外発的動機付けに関する理論である。
まず、外発的動機付けは行動自体、当人にとって興味深いものでないため、やらされているあるいは仕方なくやるものである。外発的動機付けは、元来このような受動的なモチベーションである。
しかし「有機的統合理論」では、この外発的動機付けを4つのタイプにわけ、その間に段階的にあり、それは「自ら進んでやっている」という自律性の感覚が伴っていく発達プロセス(自律化)があるといっている。その4つのタイプは、

  • 1.外的調整:最も他律的。外的要求、報酬のためにする行為。一般的に外的動機づけという場合は、この外的調整を指す。
  • 2.取り入れ的調整:外的調整を自己の内部に取り入れるが、十分に受け入れられていない状態。罪に意識をさける、自尊心を高めるためにする行為。この状態は「内部制御的な状態」でありプレシャーや緊張を感じる。
  • 3.同一的調整:行為の目標を自ら価値づけ、行為自体を重要なものと認識する状態。
  • 4.統合的調整:最も自律的な外発的動機付け。同一化的調整が自己の他の価値や欲求と矛盾することなく調和している状態。自己の感覚に基づくモチベーションとなっている。
有機的統合理論の要点は、前述した3つの基本的心理欲求が満たされることで外発的動機付けの自律化が促されるという主張にある。(抜粋)

(3つの基本的欲求は、「基本的心理欲求理論」にある「コンピテンスへの欲求」「自律性への欲求」「関係性への欲求」のこと)

目標内容理論

最後の「ミニ理論」 4.の「目標内容理論」は、ライフゴール(人生の目標)とモチベーションとの関連について説明する目標理論である。

「目標内容理論」では、人生に対する抱負(「よい人生」に関する考え方)を「内発的人生目標」と「外発的人生目標」に2分して考える。

  • 「内発的人生目標」・・・基本的心理欲求(有能さ、自律性、関係性)への欲求を直接的に満たすような、人との成長、親密な他者との関係、所属するコミュニティへの貢献を内容とする目標群。(「意味ある人生を送りたい」「一緒にいて楽しい人と知り合いたい」「援助が必要な人に手助けをしたい」など)
  • 「外発的人生目標」・・・物質主義的、実利主義的な価値観、期待を反映し基本的心理欲求の充足に直接関与しないばかりか、その充足を阻害するような目標群。(金銭的な成功、社会的な名声、外見的な魅力の3つの内容が含まれる)
内発的人生目標を優先する人は基本的心理欲求が充足されることによってウェルビーイングが向上するのに対し、外発的人生目標を優先する人はフラストレーションに陥りがちで、ウェルビーイングが低下する傾向がある。(抜粋)

自己決定理論では、内発的/外発的人生目標とウェルビーイングの関係を考える上で「ユーダイモニア(eudaimonia)」という感情体験が重視される。

これは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの考え方である。アリストテレスは、「快」を、「へドニア」「ユーダイモニア」に分けて考えた。

  • 「へドニア」:生理的欲求の充足を主軸とする五感を通して得られる即自的な快楽
  • 「ユーダイモニア」:よく生きることや個人の潜在可能性の実現プロセスで感知される快感情

そして、ウェルビーイングの研究では、この「ユーダイモニア」に着目している。

へドニアはポジティブ感情に関連する感情的ウェルビーイングに、ユーダイモニアは人格発達や自己成長に関連する心理的ウェルビーイングにそれぞれ貢献し、へドニアが短期的な福利に関連するのに対して、ユーダイモニアが長期的な福利と関連するともいわれている。目標内容理論では、外発的人生目標の達成から得られる快がへドニアであるのに対し、内発的時制目標から得られる快がユーダイモニアであり、ユーダイモニアこそが基本的心理欲求が満たされた幸福感であるとして、その意義が強調されている。(抜粋)

このユーダイモニアは、人が自らの成長プロセスで体験するポジティブ感情である。これは、マズローの「自己実現」や「B認識」といった主張とも通じる。さらに「インフェクタンス動機づけ」、「意味への欲求、本来感」に基づくモチベーションに伴われる感情である。

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