心理学界の「自動性革命」
鹿毛雅治『モチベーションの心理学』より

Reading Journal 2nd

『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第6章 習慣と態度―非意識説(その1)
   1 心理学界に「自動性革命」が起こった

今日から第6章に入る、いままで「目標説」「自信説」「成長説」と3つのミニセオリーが解説された。第6章のミニセオリーは「非意識説」である。今日のところは、導入として心理学界に起こった「自動性革命」にふれ、非意識の自動化されたモチベーションを説明している。


われわれは、通常、意思決定が行動の起点となっていると思っているが、「視線のカスケード現象」(意思決定(選好判断)より前に視線が無自覚のうちに好きなほうに傾く現象)などが発見され、その常識が覆された。
1980年代以降、非意識的なはたらき(潜在的認知)に関心があつまり、自動的モチベーションの研究が盛んになった。心理学界にとってこれは「オートマティシティ(自動性)革命」と呼ばれた歴史的な出来事であった。

もちろん常識の通り、意識が行動の原因である場合も多くある。人は意識と非意識両方のプロセスを、時と場合に応じて使い分けているのである。2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、この意識と非意識の性質や働きを二重プロセスと呼んでいる

われわれは誰でも次の2つのシステムを持っている。

  • システム1・・・早い思考で自動的に高速で働き、努力は不要のシステム。自分がコントロールしているという感覚がない「自動操縦モード」
  • システム2・・・遅い思考、時間をかけて注意を傾けたり、熟考が必要な時に発動する「意識的で努力や自制が必要なモード」

この、システム1とシステム2は役割を分担することで、問題を能率的に解決する。人は生物として、心身のエネルギーを節約し、温存し、効率的に使うようにできている。

そこで、意識と非意識の二重プロセスは、最も少ない努力ですむ方法を選ぶ「最小努力の法則」に基づいて機能する。努力に要する心身のエネルギーは限りある貴重なリソースなので、システム2への過大な負担を避け、システム全体としてエネルギーを節約する二重プロセスは、生き物としてのわれわれにとってきわめて適応的なのだ。非意識的行動を起こすシステム1は、モチベーションの効率化に大いに貢献しているというわけである。(抜粋)

「目標説」「自信説」などの多くのモチベーションは、意識の内容やプロセスに着目する「システム2型」である。これに対して本章では、「システム1型」のモチベーションについて非意識過程という観点から紹介されている。

モチベーションの研究で1990年以降潜在的認知の研究が盛んになり、非意識的な情報プロセスを通じて行動が自動的に生じたり、行動の調整がされたりする現象が明らかになった。このような「本人に無自覚のまま環境の刺激が直接行為を引き起こすプロセス」「潜在的モチベーション」と呼ばれている。その仕組みは脳を構成するネットワーク状の神経回路にあると推定されている。

潜在的モチベーションとは、環境からの刺激が「引き金」になって非意識的に目標試行的な行動が生じるという現象だといえる。われわれには、このような「自動性」を特徴とする「システム1型」のモチベーションシステムが装備されているのである。(抜粋)

ここで重要な役割を担うのが自動評価」である。「自動評価」とは「刺激を見た瞬間に意識を媒介せずにその良し悪しをとっさに判断するシステム1の働き」であり、それは意識的な努力を特徴とするシステム2とは対照的である。専門家の直感による問題解決には「暗黙知」(無意識、無自覚のうちにはたらく知識、技能)があるとされているが、これも自動評価の働きである。

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