『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第7章 場とシステム―環境説(その8) 4 「システム」としての環境(その4)
今日は、4節「「システム」としての環境」の4回目。今日のところは、モチベーションを高める「課題」とはどういうものかについてである。
モチベーションを高める「課題」にするには、「課題への熱中や没頭(エンゲージメント状態)を引き起こす」、「認識を深めたりするスキルを身につけたりする」といった学習の達成を促すということがポイントである。
興味の喚起
まず、モチベーションを高める「課題」になるには、「興味を喚起する」必要がある。そのキーワードは「ズレ」である。このズレにより、知的好奇心が喚起され「その理由がしりたい」「もっと調べてみたい」という内発的動機づけが沸き起こる。
注意の持続
活動に没頭しているとき(エンゲージメント状態)の時は、おのずと目の前の課題に注意が向いている。
課題をデザインする際には、当人に注意を向けさせ、それが長続きするような工夫が必須となる。(抜粋)
これには次の手立てが有効である。
- 多様なメディアを活用し五感を活性化する(知覚的覚醒)
- 思考を促す(探求的覚醒)
- 多様な手法を活用し、アプローチを変化させること(流動)
活動の意味や価値の実感
「価値」はモチベーションの主要な原理のひとつである。活動の意味が無意味だと感ずれば自ずとモチベーションは下がる。そのため、課題をデザインする際には、「意味や価値といった観点から工夫する必要」である。そのポイントは、
- 実用関連価値の認識を高める課題であること
- 自己関連性、すなわち本人にとってその課題が他人事でないこと
- 真正性、課題が「本物であること」。実生活に密着したリアルな課題であれば、まさに迫った感覚(迫真性)を感じられる
チャレンジ性
課題の難易度は、過度に困難な課題の場合は期待が低下し、逆に簡単すぎる場合は「やりがい」が無くなるためモチベーションが低下する。達成動機の研究では、その人が感知する課題の難易度がやる気を左右するとし、達成できる見込みが50%程度の「チャレンジングな課題」が最もモチベーションを上げるとされている。
フロー理論では、当人のスキルのレベルにマッチした「最適な困難度」が設定される時に当人が感じるチャレンジ感によって内発的動機づけが高まり、モチベーションが最大になるとされている。
以上のことから、当人にとって「チャレンジングな課題」であるという点が課題をデザインする際の要点だということがわかる。当人にとってというところがポイントだ。人によって、その課題の困難度は異なるからだ。したがって、環境をデザインする側には、難易度の異なる課題を一人ひとりの能力に応じて提供できるように準備することが求められることになる。(抜粋)
そのためには、途中で失敗しても、「最終的には達成できるという配慮」、「達成のプロセスにおけるチャレンジ感の維持」が大切である。つまり「達成の保証」「チャレンジの提供」を両立する課題が望ましい。できるようになったりわかるようになったりする過程こそがイフェクタンス動機づけに基づく効力感を実感できる体験だからである(ココ参照)。
ここから、モチベーションを上げる「課題」の問題から、「個人と環境のマッチング」、すなわち「P-Eフィット(Person-Environment fit)」の話題に移る。
まず「P-Eフィット」とは、「個人と環境の相性に着目した考え方」の総称である。両者が調和してマッチしているか、両者にズレがある場合にそれを埋めるような条件が整っているかが、ポイントである。これはいわゆる「適材適所」と呼ばれる問題で心理学においてもその重要性が古くから知られている。
「P-Eフィット」といっても、P(個人)とE(環境)のそれぞれに含まれる要素は多岐にわたる。また、「性格」(その環境が性に合っているかどうか)だけでなく、「能力」(それができるかどうか)、「態度」(仕事そのものへの価値観)なども問題になる。また、環境側も「組織の理念」「職場の職務内容」「人間関係」などの多様な要素がある。
組織心理学では、このP-Eフィットに関して多くの知見が積み重ねられてきた。その結果、個人と組織の適合によって仕事へのストレスや不安が低減されたり、心身の健康の増進、精神的安定、モチベーションの向上といった肯定的な効果がもたらされることや、個人の価値観と組織の価値観や文化・風土が一致していればしているほど、職務満足や組織コミットメントが、高いことが明らかになっている。(抜粋)
この「個人と環境の適合」は2つのタイプがある。
- 補充的適合(supplementary-fit) : 個人が求めていることと環境の性質が一致していることによる適合。ここでは、個人と環境の一致度が問題になる
- 補完的適合(complementary-fit) : 現状のままでは不一致だが、足りない点が補われることによる適合。そして、この補完的適合には、さらに2つのパターンがある。
- A.欲求-供給適合:個人の要求に対して環境側が適切な供給を与えるパターン
- B.要求-能力適合:個人が能力、性格、態度といった適性を環境に合わせるパターン
メタ分析の結果、いずれのタイプ、パターンでも、適合している場合は、職務満足、組織へのコミットメントなどのモチベーションに関する変数が高いことが分かっている。とくに「心理的欲求の満足」と「価値の一致(個人と組織が持つ価値や重要性の認知が一致)」の両方が仕事への満足感や組織との一体感などの態度にポジティブな影響があることから、補完的、補充的の2つのタイプの適合が同時に生じることが重要とされている。
ただし、当人と環境が合致しているように見えても、どこかで無理が生じて中長期的には不適応状態に陥る(過剰適合)があるので、「人間性」という観点からの検討が必要である。(「過剰適合」として、個人の金銭欲と環境側の報酬システムを適合させて、外発的人生目標を助長させる場合などの例をあげている)
また、個人差や適性をどのように評価するという点も十分な配慮が必要である。個人には一人ひとり持ち味がありそれを「個性」という。われわれは「個性」の一側面だけに注意を向けがちだが、人は複数の側面(多面性)がありその人のユニークな性質をまるごと個性として把握することが重要である。
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