『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第2章 モチベーション理論の展開(その3)
3 欲求理論 ― 性格がやる気にあらわれる
モチベーション理論には、動因低減説のように動物実験に基づくミクロな行動に焦点を当てた「行動論アプローチ」と性格に焦点を当てよりマクロな視点から人間の行為を説明する「パーソナリティ論アプローチ」がある。今日のところは、「パーソナリティ論アプローチ」として、欲求理論が説明される。
まず欲求理論の説明が書かれている。
パーソナリティ論アプローチは、多様な心理的欲求を仮定し、それを分類、整理して体系づける。そして「パーソナリティ」を「心理的欲求のバラエティとその強弱によって描かれるプロフィール(諸欲求の複合体)」と定義する。
個々人がどのような種類の欲求の充足を求め、快不快を感じるか、また、欲求間のダイナミズムに着目し分析する。
そのような分析を通して、当人の性格を判断するばかりでなく、「なぜその人がそのように振る舞うか」というモチベーションについても説明しようとするわけだ。このような考え方の総称が欲求理論である。(抜粋)
心理的欲求のうちモチベーションに関連するものを社会的欲求という。この後、社会的欲求のうち、特に重要な「達成要求」、「支配欲求」、「親和欲求」である。
この後、やる気や意欲を理解する上で重要視されている「達成要求」についてさらに詳しく記述されている。
マクレランドは、達成要求の研究を発展させた。彼の研究は「達成動機」の研究として知られている。達成動機の研究は、TATというテストにより達成要求を測定している。このテストは、あいまいな刺激を見せてその意味づけ方を解釈することでパーソナリティを測定する。たとえばある図版を見せて自由にストーリーを作ってもらいそれを解釈する。そのストーリーの中に「達成物語」(達成要求を含むストーリー)を探し、それを詳細に分析する方法で解釈される。
達成動機の一連の研究によって、達成要求の低い人は容易な課題を選ぶ一方、高い人は成功するか失敗するかわからないような、チャレンジングであるが、実現可能性のある現実的な課題を選ぶことなどが明らかにされている。(抜粋)
マクレランドは、個人の達成動機だけでなく、達成動機を社会的な変数として、経済発展との関係も研究を行った。
その結果、興味深いことに、達成動機の得点と経済発達の指標の波形曲線のパターンがほぼ同型で、しかもその両者に約50年の差があるようにみえる。つまり、社会の達成動機の水準が半世紀後の経済発展を予測するというのである。(抜粋)
欲求理論の最後に有名なマズローの「欲求階層説」について説明している。
マズローは、人は自分の天性に素直に従うとしその背景にある欲求を「自己実現」であるとした。
マズローによれば、「自己実現への欲求」とは、「その人が潜在的に持っている可能性を実現しようとする傾向性」であり、「よりいっそう、自分自身であろうとし、自分がなりうるすべてのものになろうとする願望」を指す。彼はわれわれが生れ持つ自己実現の欲求こそが、達成へと向かうモチベーションの源泉と主張したのである。(抜粋)
マズローは、5つの欲求を基本的な欲求とし、それを階層的に並べ、自己実現の欲求を最高位だが一番弱い欲求とした。そして、下位のより強い欲求が満たされるとさらに上位の欲求に基づくモチベーションが発動するとした。これが「欲求階層説」である。この階層は、上位より次のようになっている。
- 「自己実現への欲求」(自己成就感、自己の可能性への気づき、理解や洞察への欲求)
- 「自尊の欲求」(達成、尊敬、承認に対する欲求)
- 「所属と愛情への欲求」(愛、やさしさ、共同に対する欲求)
- 「安全への欲求」(安全、安定、保護、秩序を求める欲求、怖れ、不安からの自由を求める欲求)
- 「生理的欲求」(食物、水、空気、睡眠、性への欲求)
更にマズローは、このうち「自尊の欲求」以下の欲求は、欲求が満たされないと発動し、満たされると終結するもの(欠乏欲求)であるが、「自己実現への欲求」は、欲求が満たされると終わるのではなくさらに高みを目指して発動するもの(成功欲求)であるとした。
しかし、著者は、次のようにマズローの欲求階層説について注意をしている。
ただこの理論については、実証性に乏しく観念的である点や、欲求階層の妥当性などについて批判があり、マズローの説を修正したERG理論が提唱されている。(抜粋)
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