「無力感・効力感の日米比較」
波多野誼余夫 / 稲垣佳世子『無気力の心理学 改版』より

Reading Journal 2nd

『無気力の心理学 改版 : やりがいの条件』 波多野誼余夫/稲垣佳世子 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第10章 無力感・効力感の日米比較

『無気力の心理学 改版 : やりがいの条件』最終章は、「無気力感・効力感の日米比較」である。ここでは、アメリカ社会を達成思考社会日本を親和性の高い社会ととらえて、無力感・効力感の観点から比較している。ここでも9章と同じく当時の社会的雰囲気もあってか、アメリカ社会を典型的な資本主義ととらえて批判している面がありその点を注意して読む必要がある。


心理学の研究はアメリカが先進的であり、無力感・効力感という概念自体アメリカで発達してきた。この章では、アメリカで発達した無力感・効力感の理論をそのまま日本に当てはまるかどうかを検討している。

まず著者たちはアメリカ社会を、典型的な達成思考社会としている。そこでは、自らの業績が優先される。

こういう社会においては、ある活動が、自分のイニシャティブではじめられたものでないかぎり、たとえそれが成功をもたらしても、効力感を増大させられないことは、容易に理解できよう。(抜粋)

これに対して、日本は先進資本主義国でありながら、親和という要素がずっと強い

親和志向の社会というのは、結局のところ、人と人との結びつきを大事にするということである。自分の達成とか自分の能力を発揮するということ以上に、他の人たちに喜ばれ、受け入れられることに価値をおく、といいかえてもよい。(抜粋)

親和社会の日本においても競争は激烈であるが、多くの場合その競争あるいは達成は、「家族」あるいは「会社」や「組織」のために追及している。そして、一般に個人の競争は回避される。

達成社会においては、「能力」が前面に出てくる。それに対して親和社会では、他人の承認が大切であるため「努力」に重きが置かれる。

そのため、達成社会では自分の失敗の原因を「能力」と考える傾向が強くなり、自分の能力不足を補うことは難しいので、失敗するとひどく落胆する。それに対して親和社会では、問題は「能力」だけでなく「努力」にもあるとする傾向があり、失敗してもコツコツ努力する姿勢が社会的な承認が得られる。

熟達という面を考えると、達成社会では、その成功により「一時的な達成感」は得られるが「熟達」に伴う満足感が薄い

このような考察の後、日米を比較して著者は次のように言っている。

このように考えてみると、現在の社会を効力感の条件としてくらべるかぎり、アメリカに比して日本の社会はまだましといえるかもしれない。(抜粋)

全13回完了

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