『無気力の心理学 改版 : やりがいの条件』 波多野誼余夫/稲垣佳世子 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第5章 他者との暖かいやりとり
「物事を扱う分野での達成」の他に「他者との暖かいやりとり」も効力感を向上させ、同時に事物を扱ううえでの達成の喜びを向上させる。第5章では、このような他者と効力感の関係が解説される。
他者の存在意義は、児童期以降、青年期、成人期において大きくなる。それは、自分と同じ仲間に属する人々からの是認、関心、感謝が、自己の存在意義を自覚させ、生き生きとした活動の源になるからである。
ここで、著者は、このような他者との暖かい交流が効力感の源となることは、日本のような対人関係を強調する社会にいるからであるとしている。そして、アメリカのような個人的達成がひどく強調されている社会でも、最近は共同的作業や学習への関心が高まっているとしている(詳しくは第10章)。
ここで、他者と自分を取り巻く環境がどのような場合に効力感が生まれるかという問題にたいして、まず、競争的な関係が強調される文脈は、効力感が生まれにくいとしている。
最近の研究によれば、他者との競争が強調されるときには、満足感は、自分がしたことからではなく、自分の能力の高さや好運からくるとする見方が強くなることが示唆されている。さらに、競争的な文脈では、自分と相手の「能力」を評価することにももっぱら関心が向けられる。そしてたえず、相手とくらべて自分はどのくらい「頭がよいか」に神経をとがらせる傾向が強くなるといわれている。(抜粋)
競争的条件での実験では、「満足」と思う人は、「自分の能力や好運」と考える傾向が強く、非競争的な条件で「満足」と思う人は、「自分の努力」と思う傾向が強かった。
こうしてみてくると、競争が強調される文脈では、人々が結果思考になることがよくわかる。しかも、その結果は、自分の意志では変えることの難しい「能力」や「運」によって決まっていると考えるようになるのである。この意味で、競争を強調する文脈では、効力感どころか無力感を生み出しやすい素地をもっているといえよう。(抜粋)
(この部分、第3章参照)
次に競争的でない環境では、どのようなやり取りが、効力感につながるかが検討される。
①.その一つは「仲間同士が教え合うやりとり」であるとしている。
ここで注目すべきことは、教えあいは、教える者に自分に対する自信や、自分に対する肯定的イメージの発達を促すらしいことである。(抜粋)
効力感の中心は、自分に対する肯定的な見方、努力すれば何とかなるという見方であるため、仲間同士の教えあいは特に教える側の効力感を高める。
②.もう一つは、「目標の達成を目指して、仲間同士がやり取り」することである。
協同的学習と個別的学習の研究によると、共同的学習の方が愛他的行動の徴候が多く現れ、また自分に対する自信が増すことが見いだされた。また、人生を左右するのは運でないと考える傾向や、一生懸命勉強すれば結局力もつくという考え方も発達していた。いずれにせよ協同的学習の方が、効力感の形成に寄与することが分かっている。
最後に、他者は、効力感の源泉として重要なだけでなく、他者とのやり取りによって、対人的でない場面で得られた効力感の増進の働きもすることを説明している。
以上、本章で見てきたように、人間が生き生きと、充実感をもって暮らしていくことは、自分一人ではむずかしいといえよう。仲間のなかで、仲間と相互に暖かく、しかし忌憚なくやりとりするかなかで、彼の効力感も育ち、また強められる。仲間とのやり取りを通じて、仲間のためにつくしたい、役立ちたいという気持ちも育ってくるのだといえよう。そうして、仲間のためにつくすことが、逆に自分を生かすことにもなると感じるのである。(抜粋)
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