『ネガティブ・マインド : なぜ「うつ」になる、どう予防する』 坂本真士 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第2章 自己注目 — 2.1 自己注目とは
第2章は、うつと関連がある「自己注目」について解説している。本節は、まずは「自己注目」というのは何かについて
まず「自覚状態」について、例を持って解説している。その定義は、
「自覚状態」=「人が自分自身の方へ注意を向け、自らが自らの注目の的としている状態」
であり、私たちの生活の中では、自分ついて意識する状態が数多くある。
次に「自己意識特性」について、解説している。自己意識特性は、自己を意識しやすいかしづらいかの尺度である(ここに自己意識尺度を測るテストがついている)。自己について意識しやすい人を自己意識特性の高い人といい、意識しづらい人を自己意識特性の低い人という。また、この「自己意識」は、「公的自己意識」と「私的自己意識」に分かれる。
そして、「自己注目(自己に向いた注意)」の定義は、
「自己注目」=自覚状態と自己意識特性の総称
である。
次に自己注目からネガティブ・マインドを考えるために、「自己に注意を向けるとどんな心理変化が起こるか」を考える。
著者は「制御理論」をもとにこの問題を考えている。まず「制御理論」では、人の注意は、「環境」か「自己」のいずれかに向いているとする。そして、「環境」に向いていた注意が、何かの刺激(「自己注目誘導刺激」)によって、自分に向かい「自覚状態」になる。
ここで、「行動の適切さの基準」が意識される場合①と意識されない場合②に分けて考える。
①「行動の適切さの基準」が意識される場合
「自己注目誘導刺激」により「自覚状態」になる。
1.「行動の適切さの基準」と現在の状態を比較し現在の状態が基準を超えていると判断される場合は、「自己調整」が終了し「自覚状態」から脱する。
2.But、基準を超えていないと判断される場合は、基準に近づくように行動を起こす。行動により基準を越えれば、自己調整の過程を終了し自覚状態から脱する。
3.But、行動によってその基準を越えない場合は、行動を基準に近づけることができる可能性を推測する。この可能性が高い場合は、行動を基準に近づけるように行動をする。
4.But、その可能性が低いと判断した場合は、そうした試みは放棄され、落ち込みなどのネガティブな感情を経験して、自覚状態を回避する。
ここで、「行動の適切さの基準」は、「人は目標設定をして、その目標と現在の自己の状態とを比べながら行動を調整して生きる存在である」という心理学上の人間観(自己を調整する人間)を反映して、その基準はその人の個人的信念、理想、規範、対人経験やその人にとっての重要性を反映し、さらに階層的な構造を持っている。
②「行動の適切さの基準」が意識されない場合
ここで、「行動の適切さの基準」が意識されない場合の例として、著者は、ひとりの部屋で、自分の性格や将来についてあれこれ考えるような場面を上げている。
「制御理論」では、「行動の適切さの基準」が意識されない場合は、自己の内的状態への感受性が高まり、自己に関するさまざまな情報が知覚されやすくなると考えられている。そのため、人と話す際に、他の人よりも自分に関することを話題にしやすくなり、自分に関する報告が正確になる。
この本で著者は、行動の適切さの基準が意識されない場合の心理的影響、つまりその時に自己の内的状態への感受性が高まることを説明するために、認知心理学の概念を身近なパソコンに置き換えて説明している。
①、②の状態の時にどのようなことが起こるか、この本では、表の2-2にまとめている。それを以下に引用する。
〇自己に注目した場合に起こる認知・感情・行動への影響 ①適切さの基準が意識されるとき 行動の適切さの基準に近づけようとする(行動) ネガティブな自己評価がなされる(認知) ネガティブな感情を経験する(感情) 自己から注意をそらす(行動) ②適切さの基準が意識されないとき 内的感受性が高まり、自己に関する情報が利用されやすくなる。その結果、 原因を自己に帰属する(認知) 会話場面で自己言及が増加する(行動) 自己報告が正確になる(行動) 経験している感情が強くなる(感情) 表2-2より
著者は、本節のまとめとして次のように書いている。
本節では、自己を意識した場合の心理的影響について説明してきた。特に行動の適切さの基準が意識された場合、人はその行動の適切さの基準を行動の指針とし、行動を調節する。行動をうまく調整できていれば、自己注目は適応的に働くはずである。しかし、これから論じるように、自己注目がうつを発生、憎悪させる場合があるのである。(抜粋)
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