[読書日誌]『日本語の古典』
山口 仲美 著 [全32回]

Reading Journal 2nd

『日本語の古典』山口 仲美 著、岩波書店(岩波新書)、2011年
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

プロローグ

ストレスの話』を読み終えた。では次は何を読もうか?最近本屋に行くと『源氏物語』の本がいっぱい並んでいるが、そうか、NHKの連ドラが源氏の話であるようだ。いち時期、源氏物語系の本を何冊か読んだことがあるので、今度は、源氏かな?と思った・・・・が、ちょっと重いかな?それに、その前に読んでも良い本があると思って、古典文学の概説的なこの本にしました。


今日のところは、「プロローグ」である。ここで著者は、まず「古典を読む意味」について、そして「本書の特徴」「各時代の特徴」を解説している。

古典を読む意味

日本の古典は今や瀕死状態。(抜粋)

と著者は冒頭で訴えている。そして、古典を読む意味を山折哲夫の「共生とは何か」『水の文化』三〇号)の文章をもとに訴える。山折は、日本が明治以降の近代化をする過程での教育軸は

  • 第一軸・・・「科学技術立国」
  • 第二軸・・・「社会科学」

であったとし、そして今や

  • 第三軸・・・「文化・芸術・宗教」

という軸が必要となり、この軸を必要だと認識しないと生き残れないと言っている。

そして、こんなことを力強くおっしゃる、「古典をしっかり教えれば、それで宗教教育になると考えている。万葉集とか源氏物語、平家物語などには、古代から現代に至るまでの日本人の宗教観というものが、自然観も含めて全部入っているので、それらをしっかりバランスよく教えればいいわけです。」(抜粋)

著者は、この言葉に大きな勇気をもらったとしている。そして、宗教観に加えて古典を読む意味として、「相対化する目をやしなう」こと、「創造性の芽をはぐくむ」ことがあるとしている。

  1. 相対化する目をやしなう
    古典を読むと、物事を相対的に見る目を養う。現代だけしか知らないと、現代の価値観や習慣が絶対的なものと信じ込んでしまう。しかし古典の世界には、現代とは全く違う物の見方や生活習慣が書かれていて、現代を絶対とみる見方から脱出できる。
  2. 創造性の芽をはぐくむ
    古典には創造性をはぐくむための養分が蓄えられている。古典には、日本人の価値観や感性、表現方法などが詰まっているため、それを消化することで、新たな創造性につながる。

本書の特徴

日本語の歴史の専門家である著者は、この本の特徴として、「主に言葉との関わり合いから古典を取り上げる」こととしている。『日本語の古典』と書名には、「日本語で書かれた古典」という意味と「日本語から見た古典」という意味がある。言葉や表現から古典を取り上げることで、従来指摘されていなかった新しい古典の魅力が見えてくる。

さらに、「一作品ごと一テーマの設定」も本書の特徴としている。それぞれの作品が一つのテーマを持って、解決が図られる仕組みになっている。

尚、本書では韻文作品は、散文とは違ったレトリック上の要素が加わるので、のぞいてあるとのこと。

各時代の特徴

最後に、言葉から見た各時代の特徴をまとめてある。

  • 奈良時代
    言葉がまだ霊力を持っている時代で、言葉には現実を支配するエネルギーがある。まだ言葉を客観化できていない。
  • 平安時代
    仮名の発明により、自分たちの心の隅々まで表現できるようになり、愛、悩み、苦しむ心の襞を表現した内省的な作品が多く出てくる。華やかは貴族文化が絢爛豪華に咲き誇っている。
  • 鎌倉・室町時代(安土桃山時代)
    貴族文化が廃れて武士の時代となる。戦乱や相次ぐ天変地異のため人々は無常観を抱き、その作品は暗く、宗教性が強い。文章は力強い和漢混合文である。
  • 江戸時代
    乱世が終わり安定した世の中になる。読者を意識した職業作家が登場し文学作品が商業化する。作品は会話文が多く理解も容易となる。

関連図書:
紫式部 (著)、谷崎潤一郎(訳) 『潤一郎訳 源氏物語源氏物語』(全5巻) 中央公論新社(中公文庫)、1991年
山折哲夫(著)「共生とは何か」(『水の文化』三〇号

目次 
プロローグ [第1回]
I 言葉に霊力が宿るーーー奈良時代
   1 古事記ーー言葉が生む悲劇 [第2回]
   2 日本書紀ーーリアルな歴史叙述 [第3回]
   3 風土記ーータブーと地名由来 [第4回]
II 貴族文化の花が咲くーーー平安時代
   4 竹取物語ーー成長するかぐや姫 [第5回]
   5 伊勢物語ーー命をかける、それが愛 [第6回]
   6 うつほ物語ーー理想の男性を造型する [第7回]
   7 蜻蛉日記ーー告白日記を書かせたもの [第8回]
   8 大和物語ーー歌物語から説話文学へ [第9回]
   9 落窪物語ーーセリフから人物が見える [第10回]
   10 枕草子ーーエッセイストの条件 [第11回]
   11 源氏物語ーー言葉に仕掛けられた秘密 [第12回]
   12 堤中納言物語ーーカタカナを書く姫君は何歳か [第13回]
   13 大鏡ーー権力闘争を勝ち抜く男 [第14回]
   14 今昔物語ーー落差のある言葉遣いの魅力 [第15回]
III 乱世を生きた人は語るーーー鎌倉・室町時代
   15 方丈記ーー見事なドキュメンタリー [第16回]
   16 平家物語ーー鮮烈に描かれる若武者の死 [第17回]
   17 とはずがたりーー愛欲に生きた人 [第18回]
   18 徒然草ーー兼好法師は女嫌いか [第19回]
   19 太平記ーー「武者詞」の活躍 [第20回]
   20 風姿花伝ーー経験と情熱の能楽論 [第21回]
   21 狂言ーー短い時間で笑いを作る [第22回]
   22 伊曾保物語ーー四五〇年前から愛された翻訳文学 [第23回]
IV 庶民が楽しむ言葉の世界ーーー江戸時代
   23 好色一代男ーー近世的なプレーボーイ [第24回]
   24 おくのほそ道ーー句を際立たせる [第25回]
   25 曾根崎心中ーー言葉が人形に魂を吹き込む [第26回]
   26 雨月物語ーー怪異のリアリティ [第27回]
   27 東海道中膝栗毛ーーシモネタの生む解放感 [第28回]
   28 蘭東事始ーー翻訳者の良心の告白 [第29回]
   29 南総里見八犬伝ーー迫力満点の戦闘シーン [第30回]
   30 好色梅児誉美ーー心をゆさぶるエロチシズム [第31回]
エピローグ

コメント

タイトルとURLをコピーしました