『それでも日本人は「戦争」を選んだ』加藤 陽子 著 朝日出版社 2009年 1700円+税
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
はじめに
Reading Journal を再開しようと思った。どんな本を読もうかと思って本屋でもらった「新潮文庫の100冊 2022」をパラパラめくってみた。加藤陽子の「それでも日本人は「戦争」を選んだ」が面白そうだったので、買ってみました。
今日のところは、「はじめに」この本で著者が何を伝えたいかが書かれている。
本書は、著者が中高生を相手に行った5日間の講義の記録である。
1930年代の外交と軍事が専門である著者は30年代の教訓とは何かと問いかける。
そのころ国民は、
- 国内の社会民主主義的な改革
- 民意が正当に反映されることによって政権交代が可能になる
ことを望んでいた。しかし、そのようなことは、当時の政治の情勢では実現できなかった。その時、国民の支持を得たのが、“疑似的“な改革者としての軍部だったという。当時の軍部の改革案の中には、項目自体はとても良い社会民主主義的な改革案が盛られていた。
しかし、著者が”疑似的“としているように、国家の安全保障を目的とする軍部では、安全が脅かされる事態になるとそのような改革案は最初に放棄される運命であった。
ここまでで述べたかったことは、国民の正当は要求を実現しうるシステムが機能不全に陥ると、国民に、本来見てはならない夢を疑似的に見せることで国民の支持を獲得しようとする政治勢力が現れないとも限らないとの危惧であり教訓です。[抜粋]
著者は現代のおける機能不全の具体例として選挙制度の問題を論じている。
また、前著の『戦争の日本近現代史』(講談社現代新書)と比較して本書の狙いを解説している。
つまるところ時々の戦争は、国際関係、地域秩序、該当国家や社会に対していかなる影響を及ぼしたか、また時々の戦争の前と後でいかなる変化が起きたのか、本書のテーマはここにあります。[抜粋]
本書はまず序章の狙いを、
対象を見る際に歴史家はどのように頭を働かせるものなのか、さらに世界的に著名な歴史家たちが「出来事」とは別に立てた「問い」の凄さを味わいながら、歴史がどれだけ面白く見えてくるものなのかをお話ししました。[抜粋]
としている。
以後、1章で日清戦争、2章で日露戦争、3章で第一次世界大戦、4章で満州事変と日中戦争、5章で太平洋戦争を扱う
追加情報:
第9回 小林秀雄賞
関連図書
加藤 陽子著 「それでも日本人は戦争を選んだ」 新潮社(新潮文庫) 2016年
加藤 陽子著 「戦争の日本近現代史」講談社(講談社現代新書) 2002年
目次 はじめに [第1回] 序章 日本近現代史を考える [第2回] 戦争から見る近代、その面白さ 9・11テロの意味/歴史は暗記? 人民の、人民による、人民のための 南北戦争の途中で/なにが日本国憲法をつくったか [第3回] 戦争と社会契約 国民の力を総動員するために/戦争相手国の憲法を変える/日本の憲法原理とはなんだろう [第4回] 「なぜ二十年しか平和は続かなかったのか」[第5回] [第6回] 変人のカー先生/大戦直前に書かれた本/まちがっていたのは連盟のほうだ!/特殊のなかに一般を見る/過去の歴史が現在に影響を与えた例とは 歴史の誤用 [第7回] なぜベスト・アンド・ブライテストが誤ったのか/無条件降伏方式が選ばれた理由/戦争を止められなくなった理由 1章 日清戦争 「侵略・被侵略」では見えてこないもの 列強にとってなにが最も大切だったのか [第8回] 日本と中国が競いあう物語/貿易を支える制度とは?/華夷秩序という安全保障 日清戦争まで[第9回] 中国の変化/山県有朋の警戒/福沢先生の登場/シュタイン先生の登場 民権論者は世界をどう見ていたのか [第10回][第11回] まずは国の独立が大事/それでは国会の意味とはなにか/「無気無力の奴隷根性!」/藩閥政治と対抗するために/戦費をつくったのは我々だ 日清戦争はなぜ起きたのか [第12回][第13回] 強い外務大臣/中国側の反論は?/日清戦争の国際環境/普選運動が起こる理由 2章 日露戦争 朝鮮か満州か、それが問題 日清戦後 [第14回] 戦争の「効用」/なにが新しい戦争だったのか/「二十億の資財と二十万の生霊」/シュタインの予言が現実に 日英同盟と清の変化 [第15回] ロシアの対満州政策と中国の変化/開戦への慎重論/ロシア史料からなにがわかったか 戦わなければならなかった理由 [第16回] 日露交渉の争点/韓国問題では戦えない 日露戦争がもたらしたもの [第17回] 日本とアメリカの共同歩調/戦場における中国の協力/戦争はなにを変えたのか 3章 第一次世界大戦 日本が抱いた主観的な挫折 植民地を持てた時代、持てなくなった時代 [第18回][第19回] 世界が総力戦に直面して/日本が一貫して追求したもの/日米のウォー・スケア/西太平洋の島々/山東半島の戦略的な意味 なぜ国家改造論が生じるのか [第20回] 変わらなければ国が亡びる/将来の戦争/危機感の三つの要因 開戦にいたる過程での英米とのやりとり [第21回] 加藤高明とエドワード・グレイ/イギリスが怖れたこと/アメリカの覚書 パリ講和会議で批判された日本 [第22回] 松岡洋右の手紙/近衛文麿の憤慨/三・一独立運動 参加者の横顔と日本が負った傷 [第23回][第24回] 空前の外交戦/若き日のケインズ/霊媒師・ロイド=ジョージ/批判の口実に利用される 4章 満州事変と日中戦争 日本切腹、中国介錯論 当時の人々の意識 [第25回] 謀略で始まった作戦と偶発的な事件と/満州事変と東大生の感覚/戦争ではなく「革命」 満州事変はなぜ起こされたのか [第26回] 満蒙は我が国の生命線/条約のグレーゾーン/陸軍と外務省と商社/国家関連が大部分 事件を計画した主体 [第27回][第28回] 石原莞爾の最終戦論/ずれている意図/独断専行と閣議の追認/蒋介石の選択/リットン調査団と報告書の内容/吉野作造の嘆き 連盟脱退まで [第29回] 帝国議会での強硬論の裏側/松岡洋右全権の嘆き/すべての連盟国の敵!! 戦争の時代へ [第30回][第31回] 陸軍のスローガンに魅せられた国民/ドイツ敗北の理由から/暗澹たる覚悟/汪兆銘の選択 5章 太平洋戦争 戦死者の死に場所を教えられなかった国 太平洋戦争へのいろいろな見方 [第32回] 「歴史は作られた」/天皇の疑念/数値のマジック 戦争拡大の理由 [第33回][第34回] 激しかった上海戦/南進の主観的理由/中国の要求/チャーチルのぼやき/七月二日の御前会議決定の舞台裏 なぜ、緒戦の戦勝に賭けようとしたのか [第35回] 特別会計/奇襲による先制攻撃/真珠湾はなぜ無防備なままだったのか/速戦即決以外に道はあったのか/日本は戦争をやる資格のない国 戦争の諸相 [第36回] 必死の戦い/それでも日本人は必勝を信じていたのか/戦死者の死に場所を教えられない国/満州の記憶/捕虜の扱い/あの戦争をどう見るか おわりに
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