『ストレスの話 メカニズムと対処法』 福間 詳 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第Ⅰ部 ストレスとは何か 第1章 ストレス反応とストレッサー、不安(前半)
まえがきが終わって今日から本編になる。まず第1章は、ストレス反応の意味などの全体像が書かれている。今日のところはまずストレスの定義からである。さて、読み始めよう。
ストレスの概念は、カナダの生理学者ハンス・セリエによって、確立された。その定義は、「stressor (ストレッサー / ストレスを引き起こすもともとの刺激)により引き起こされる生体組織内の変化」である。その研究は意外に最近のことで、彼の著書『現代社会とストレス(The stress of Live)』(改訂版)が出版されたのは一九七六年のことである。そして、一九七〇年代にベトナムからの帰還兵の多くがPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患ったことにより、有名になった。
このように、ストレスは私たちが日常生活で受けているあらゆる刺激に対する脳の反応ということになり、私たちが使っている一般的な用語とは少し意味が違っている。この本では、誤解がないように「あらゆる刺激に対する脳の反応」を「ストレス反応」として解説する。
ここで、重要なのは「反応」という用語である。一般的に「疾病」では、一定の母集団に対して「罹患率」としてその病気の発生する確率を出すことができる。しかし、ストレスは「反応」であるため罹患率を予測することはできない。
刺激を受け入れる機能は、五感(視角・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)であり、一日中刺激を受けている。そして脳が「これは」と注目した刺激に反応して、ストレス反応が起きる。つまりストレス反応は私たちの生活に密着している。
ストレス反応は、一般的に短時間でもとの状態に戻る。しかし著しく強いストレスや不快なストレスに持続的にさらされると、元の状態に戻れることができずに、身体的な病気や精神症状を引き起こす原因となる。このストレスの問題は、個人の精神の弱さと混同されがちであるが、これは誰にでも起こりうる反応であり、「健康人のストレッサーに対する正常な反応」と考えるべきである。
ストレス反応は「疾病」とは、異なる点がある。疾病の場合は”質”的な要素が強く「All or None」であるが、ストレス反応は、”量“的な要素が強く「少しの反応、中くらいの反応、強い反応、そして非可逆的な反応(なかなか自然回復しないもの)」と表現でき、この非可逆的な反応を「ストレス障害」と呼ぶ。
「ストレス反応を引き起こすもとの刺激」を「ストレッサー」と呼ぶ。一般にストレッサーは、
- 物理的ストレッサー:高温多湿、寒冷、騒音など
- 化学的ストレッサー:低酸素、薬物など
- 生物的ストレッサー:発熱、痛み、疾病など
- 心理的ストレッサー:怒り、不安、悲しみなど
がある。
人がストレス反応を生じる家庭はかなり複雑である。
ここより、ストレッサーの脳の関わり方に関して「刺激の強さ」「刺激のタイプ」「プラスとマイナスの刺激」「刺激の増幅」の4つの切り口から分類し解説される。
刺激の強度
刺激の強度は「ハイリスクストレッサー(High Intensive Stressor)」と「ローリスクストレッサー(Low Intensive Stressor)」の二つに分類される。
- 「ハイリスクストレッサー」は、生命の危険に関わる強い刺激で、多くは「怒り」「恐怖」「悲哀」といった感情を生起される。またこれは、一過性の刺激でありPTSD(Post-traumatic stress disorder:心理的外傷後ストレス障害)を引き起こす。
- 「ローリスクストレッサー」は、日常で遭遇する比較的危険度の低いストレスで、多くは「不安」が生起される。そしてこれは慢性的・持続的な刺激であり、生活で受ける頻度は各段に高い。
刺激のタイプ
刺激のかかわり方の状態により、その刺激が単調か多様」か、日常的か非日常的かという切り口がある。多様な刺激、日常的な刺激ではストレス反応が生じにくいので、ここでは、「単調な刺激」と「非日常的な刺激」が取り上げられている。
- 「単調な刺激」とは、種類が限定された同一刺激のことであり、このような刺激を長時間受けることは、脳の一定箇所に継続的に負荷がかかり、ストレス反応を起こす。また、単調な刺激はマンネリ化を招きテンションを下げてしまう。
- 「非日常的な刺激」とは、通常は体験しないような環境に身を置いたときや今まで経験したことのない思考・行動パターンを取った場合に、脳がその刺激を危険常体と判断し興奮状態になることである。このような場合は、疲労を感じるよりむしろ高揚感が感じられ、一種の「過剰適応」状態になる。
プラスとマイナスの刺激
- 「プラスの刺激」とは、文字どおり心地よい刺激である。この刺激は、「食欲」「性欲」「睡眠欲」「行動欲」「生命欲」の五つの「欲動」に関する獲得要求、それに加えて「美しい」「美味しい」「おもしろい」「心地よい」「達成感」「満足感」「充実感」「幸福感」などの感情獲得要求に基づく行動によって得ることができる刺激である。
そして、大半のプラスの刺激は、自分が行動するときに得られる「能動」的刺激である。また、人により何に「快」を感じるか異なるため、プラスの刺激は、本人にとって絶対的なものである。 - 「マイナスの刺激」は、不快な刺激のことであり、ストレス反応を起こす。これは「受動的」な刺激であり、本人の意思に関係なく勝手に入って来る。
刺激の増幅
ストレッサーは刺激の種類によって「直接刺激」と「増幅刺激」に分けられる。
- 「直接刺激」は、ダイレクトに脳の反応を引き起こすものである。(痛み、騒音、薬物など)
- 「増幅刺激」は、ある刺激が被刺激者の感情などによって増幅されるものである。その感情とは、「怒り・悲しみ」「不快」「罪の意識・自己否定」「恐怖」「不安」「愛情」などである。このような感情を伴う刺激は、本来のその端緒となった刺激を脳内で自ら加工し、その強度を増幅させる。
関連図書:ハンス セリエ (著)『現代社会とストレス』法政大学出版局 (叢書・ウニベルシタス) 1988年
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