自尊心とモチベーション(前半)
鹿毛雅治『モチベーションの心理学』より

Reading Journal 2nd

『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著 
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第4章 成功と自尊心―自信説(その5)
   5 自尊心とモチベーション(前半)

モチベーションの方向性を考えると自信に関する心理現象が「自己概念」「自尊心」という要因が深く関わる。この「自己概念」については、4節で解説された。引き続き5節では「自尊心」を取り扱う。
(「自尊心とモチベーション」は長いため、「前半」と「後半」に分ける)


今日のところは、「自尊心=(自分をどう評価しているか)」である。著者はこの「自尊心」を解説するために、5節の冒頭で中島敦の『山月記』を紹介している。

著者は、この山月記は名誉欲と自意識に囚われた人間の悲劇を描き出しているとして、このように言っている。

李徴の生きざまは、まさに自尊の要求(第2章3節)に基づくモチベーションを背景としている。この短い小説にわれわれが感銘を覚える理由のひとつは、自分の心に潜んでいる李徴を感じ取るからではなかろうか。(抜粋)

(「自尊の要求」はココ参照)

人にとって「自分」とはこれほどまでに特別な存在である。「自尊の要求」とは、その特別な自分の価値を自分自身が感じ、他者にも感じてもらいたいという要求である。
そして、この自尊の要求を満たすことで「自分に対する満足感」といった特定の情動が生れる。

「自尊心」とは、「自分自身を価値ある、尊い存在だと思える主観的な感覚」である。自尊心は、「自分に対する満足度」に反映し、「自分が自分自身を認め、受け入れるか」という問題のキーワードである。自尊心は4節で取り扱われた自己概念に対する自己評価によって生じる感覚や感情を意味する。

ウィリアム・ジェームズは、有能感覚の観点から自尊心を 「実際の「成功」/主観的な可能性としての「願望」」と定義した。また、ローゼン・バーグは、自尊心の特徴として価値感覚を重視し、「自尊心の測定尺度」を提案した。

自尊心は、当人の行動に影響を及ぼす。自分は価値がある存在で有能だという感覚あれば、何事にたいしても前向きに取り組むということである。この点こそ、モチベーション研究の観点から着目すべきポイントだろう。(抜粋)

自尊心は、接近-回避動機づけと密接に関係し、自尊心の高い人は接近行動を、低い人は回避行動をとりやすい。また自尊心が高い人は、楽観的、積極的、自発的な傾向があり、自尊心の低い人は、悲観的、受動的、不適応な心理状態となる。

自尊心は、とりわけ自分のアイデンティティと関連ある分野における心理現象である。
モチベーションと同様に自尊心も「特性レベル」、「領域レベル」、「状態レベル」の3水準がある(第2章5節参照)。

  • 「状態レベル」・・・・失敗して自分が嫌なるなど変動する自尊心
  • 「領域レベル」・・・・特定の領域ごとの自尊心
  • 「特性レベル」・・・・個人の安定した自尊心

ここで「領域レベル」自尊心に関して「自己価値随伴性」という考え方が提唱されている。自尊心を規定する領域にはバラエティがあり、何に自尊心を感じるかは人によって違う。

一連の研究の結果、自己価値が随伴している領域で失敗すると、自尊心が傷つきやすく不安定になることや、自尊心を特定の領域に随伴させる程度が高いほど、また、随伴させる領域が多いほど、自尊心が脆いことなどがわかっている。(抜粋)

関連図書:中村敦(著)『李陵・山月記』、新潮社(新潮文庫)2013年

コメント

タイトルとURLをコピーしました