自己決定理論(前半)
鹿毛雅治『モチベーションの心理学』より

Reading Journal 2nd

『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第5章 学びと発達―成長説(その4)
   3 自己決定理論(前半)

成長説の最後は、「自己決定理論」である。これは、報酬が内発的動機づけに加算的に働かないという実験事実から、モチベーションの代表理論である「自己決定理論」に発展した。
まず前半では、「認知的評価理論」についての解説がなされている。
(3節「自己決定理論」は、前半と後半に分ける)


1970年代に、ディシに実験などにより「報酬が内的動機づけに加算的に働かない」こと、「内発的に動機づけられている行為に対して報酬が約束されると、その後のモチベーションが低下する」ことが示された。この現象を「アンダーマイニング効果」と総称される。そして、これらの知見がわれわれの常識を根底から覆すため学界で注目された。

その後、「外的な拘束」(評価や監視、締切期限の設定)でも「アンダーマイニング効果」が生じること。反対に、ほめ言葉(言語報酬)は、内発的動機づけを高める現象(「エンハンシング効果」)があることも分かってきた。

アンダーマイニング効果については以下のことが分かっている.

  • 報酬が予期せずに与えられた場合
  • 言語的報酬(ほめ言葉)の場合
  • 課題がそもそも興味深くない場合

は、報酬が内発的動機づけを低めることはなく、むしろ高める。
しかし有形の報酬、特に当人がその報酬を予期する場合は、内発的動機づけを低める。

このアンダーマイニング効果とエンハンシング効果の代表的な解釈が「認知的評価理論」であり、この理論を端緒として、ディシライアンにより「自己決定理論」が生れた。

認知的評価理論では、人が生得的に自己決定(自律性)とコンピテンス(有能さ)への欲求を持っているという前提の下で、報酬、評価、期間設定といった外的事象の二面性に着目する。すなわち、①そのような外的事象は、当人の「やらされる」という感覚を高めることで自己決定の感覚を低める一方、②「できた」「成功した」といったコンピテンスに関する情報を伝えることで当人の有能さの感覚を高める。そして、自己決定の感覚が低まれば、自己決定への欲求が満たされず内発的動機づけも低まる(制御的機能)のに対し、有能さの感覚が高まれば、コンピテンスへの欲求が満たされて内発的動機づけも高まる(情報的機能)と説明したのである。外的事象には、その後の内発的動機づけに対して相反する2つの働きがあるというわけだ。(抜粋)

この「認知的評価理論」は、人の内部で生じている心理プロセスに説明変数を加えることにより、より精緻なものとした。

人の心理状態を、

  • 「内部制御的」状態・・・・特定の環境によって圧迫感や緊張感が高められた状態
  • 「内部情報的」状態・・・・環境と関わり合う中で有能感、自律性の感覚を感知している状態

に区別し、環境性質が「内部制御的」か「内部情報的」かが、個人内の心理状態を規定し、内発的動機づけに影響を及ぼすとした。

ここで、この事象を説明するためにテストをするときに教師の発言の影響についての例が載っている。

小テストを受ける前に、教師が、

  • 1.「点数を成績に入れるよ」(成績教示)
  • 2.「成績には入れないど、自分でどこがわかっているかを確認してごらん」(確認教示)

という場合に、内発的動機づけへの影響は、

  • 成績教示が生徒たちの緊張や不安を高め、確認教示が有能さの感覚を高める
  • 成績教示よりも確認教示が内発的動機づけ(自主的に提出するプリント数、授業が楽しいと思う意識)を向上させる
以上の結果から、成績教示は行動制御的、確認教示は自律性支援的なはたらきをそれぞれ持つ外的事象であったことがわかる。(抜粋)

「認知的評価理論」の「内部制御的」か「内部情報的」か、というよりも「成績教示」か「確認教示」か、による生徒の内発的動機づけの違いは、興味深いですよね。同じ小テストをするんでも、先生のひとことでその影響が180度変わってしまう!よい先生ってのは、そういうことを経験で理解しているんだと思った。(つくジー)

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